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東京高等裁判所 昭和30年(う)2697号 判決

被告人 三浦益次郎

〔抄 録〕

一、論旨第一点。

公職選挙法第百四十八条の二第三項にいわゆる「新聞紙又は雑誌に対する編集その他経営上の特殊の地位を利用して」とは、そうした地位を自己又は他人の利益に使用することを謂い、従つて苟くも、そうした地位にあることを奇貨として当選を得若しくは得しめ又は得しめない目的で、これが地位を利用して、新聞紙又は雑誌に選挙に関する報道及び評論を掲載し又は掲載させた事実ある以上、その地位を利用するに当り、自己の特殊の地位、勢力を背景として、反対の意見を排斥無視して自己の見解を押し通した事実あると否とにかかわらず、その所為は、同項所定の禁止義務に違反し、これが所為につき、同法第二百三十五条の二第三号所定の罪の成立あるを免れない。原審が審理を為さなかつた結果、証拠によらないで事実を認定するの違法を冒したとの所論は、その主論の前提において理由なく採用するに由がない。論旨は理由がない。

二、論旨第二点。

記録及び証拠によれば被告人は、日刊紙伊豆毎日新聞紙の発行、販売を業とする株式会社伊豆毎日新聞の専務取締役、編集発行人であり、而も事実上も同新聞紙の編集発行販売その他の同社経営業務の一切を担当していた者であることが明らかであるから、公職選挙法第百四十八条第二項にいわゆる新聞紙の販売を業とする者とあるに該当するものということができるのみならず、元来同法第二百四十三条第六号に「第百四十八条第二項の規定に違反して新聞紙又は雑誌を頒布し又は掲示した者」とあるは、必ずしも新聞紙又は雑誌を販売する業務主体たることを要せず、その業務主体において発行した新聞紙又は雑誌を現実に頒布し又は掲示した者であることをもつて足るものと解するを相当とするから、伊豆毎日新聞及び被告人は新聞紙又は雑誌の販売を業とする者でないと主張し、これが主張を前提として原判示第二の事実につき公職選挙法第二百四十三条第六号所定の罪の成立を否定する所論は採用し難い。また同法第二百四十九条の三の罰則規定を引用して展開する所論も、同法第二百四十三条第六号、第百四十八条第二項の解釈適用の上に採用すべく適切でない。

三、次に、伊豆毎日新聞が、昭和三十年一月十七日及び同年二月三日の二回に亘り、号外二千部宛を他の一般新聞紙に折込み配布する方法により、一般販売店(正確に言つて新聞販売の取次店)をして同店予約の一般購読者に無償配布させて頒布した事実のあることは、証拠上これを窺うことができないわけではないが、それかといつて、右頒布にかかる号外をもつて、公職選挙法第百四十八条第一項及び第二項の規定の適用上、新聞紙の概念として同条第三項に規定している事項のうち少くともいわゆる「毎月三回以上号を逐つて定期に有償頒布するもの」とあるに該当するものとは到底言い得ないところであるから、被告人が原判示のように伊豆毎日新聞の平素の発行部数は全部で約二千部にすぎず、而も、そのかねての販売区域も静岡県熱海市内に限られているところであるにかかわらず、原判示第一事実記載の如く、特定の衆議院議員候補者のみを推奨する趣旨の同人のみに有利な報道を記載した号外約二万五千部を同年二月十三日及び翌十四日に亘り前同様、一般新聞販売店(原判決は新聞販売業者とも判示しているが記録ないし証拠上明らかなように新聞販売の取次店)をして他の一般新聞紙に折込み配布させる方法により熱海市内のほか静岡県下の伊東市、沼津市、三島市、田方郡伊豆長岡市、同郡網代町に在住する選挙人を含む一般新聞予約購読者に無料配布させたことの証拠上明らかな被告人の所為は、とりもなおさず、公職選挙法第百四十八条第二項にいわゆる「通常の方法」によらずして頒布したもので、同項の規定に違反して新聞紙を頒布したものというのほかはなく、同法第二百四十三条第六号所定の罪の成立あるを免れない。尤も、原判示にいわゆる一般販売業者の中には、極めて小部数ではあるが、伊豆毎日新聞から、同新聞紙発行の新聞販売の委託を受けていた者(大倉栄次、芹沢康夫、土屋義範及び雲野てる江の四名)もあつて、これらの者に前示公職選挙法所定の条件に叶つた販売を委託したのであれば、たとえそれらの者においてこれを配布するに至つたとするもこれが所為をもつて通常の方法によらない頒布というを得ないことは勿論であるが、前示認定のような方法による号外の委託配布による頒布の所為は、右四名の者を介して行つた原判示所為と雖も、公職選挙法第二百四十三条第六号所定の罪の成立あるを免れない。

原判決には、所論に言うような理由不備ないしは理由齟齬又は法令の違反はない。論旨はすべて理由がない。

四、論旨第三点。

被告人の本件頒布の所為は、原判決が、その第二において認定判示しているところによつて明らかなように、すべて他人を利用した他人の配布によつて行われたものではあるが、原判決が、その新聞紙配布の最終の主たる責任者である新聞販売店なり販売業者(正確にはいずれも新聞販売の取次店)をして配布せしめた事実を認定判示している以上、本件具体の事案を基盤とする被告人頒布の所為の事実摘示として欠けるものがあるということはできない。蓋し、右新聞販売店なり販売業者をして配布せしめと判示している以上、その配布は、同店の従業員等において配布したものであることは当然なことと言わなければならないからである。所論によれば、原判決が、判示第二の事実について判示するところでは、被告人が新聞紙配布の具体的行為者との共謀にかかる共同正犯の罪責を負うものとする趣旨か、それとも間接正犯としての罪責を負うものとする趣旨なのか不明であるという趣旨の主張をして原判決を非難しているが、原判決が、被告人に対し、他人との共謀にかかる共同正犯としての罪責を問う趣旨でなく、ただ他人を利用して犯罪を実現するにおいては、その利用者に単独犯の正犯としての罪責の成立あるものとの立論に立ち、他人を利用した他人の配布による新聞紙頒布の罪責を認めたものであることが原判示自体自から明白であつて、これが罪責を認める事実の判示として原判決には特段に非難さるべきものはない。

而して、公職選挙法第二百四十三条第六号にいわゆる頒布の所為の成立あるがためには、ただ、多数人に配布した事実あるをもつて足り、配布を受けた者が特定していることを要しないばかりか、必ずしも選挙権を有する者であることをも必要としないものと解する。従つて、原判決が、新聞紙配布仲介の労を取つた伊豆毎日新聞の従業員や、現実に配布の任に当つた原判示にいわゆる各新聞販売業者の氏名住居及びその配布にかかる新聞の部数等を特に表として明らかにした上、配布を受けた者としてその一人を挙げ、その者の住居、氏名を明確にして、その外多数の静岡県下における原判示市及び町内の選挙権者を含む新聞購読者に対し無料で配布せしめと判示している以上右頒布犯罪事実の判示として特に間然するものがあるということはできない。

尤も、原判決が、その別表でも認めているように、新聞販売業者から新聞購読者へ現実に配達した事実の証拠上認め得られない分(原判示の新聞販売業者金井輝雄、同佐藤喜六関係)まで、被告人の頒布の所為にかからしめて前示頒布の罪に問うている点は、畢竟法令の適用を誤まるの過誤を冒したものというのほかはないが、被告人の本件頒布の所為は、これを包括的に観察すべき公職選挙法第二百四十三条第六号所定の犯罪構成要件該当の一罪として処断さるべき場合であるし、それにまた、右過誤の故に、量刑上にも特段の影響を及ぼすべきものとも言えないから、これが過誤をもつて、判決に影響を及ぼすことの明らかなものであるとして原判決を破棄する理由とすることはできない。

原判決には、罪となるべき事実を摘示しておらない違法があると主張してその破棄を求むる所論は採用し難い。

論旨もまたすべて理由がない。

(三宅 河原 遠藤)

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